ゴールを定める

ヘルプデスク、あるいはサポート担当者としてユーザーの質問に答えたりトラブル対応を行う場合、重要なのはゴールの設定です。

ゴールとは、ユーザーの「ああしたい」「こうしたい」というニーズ (要求) と、担当者 (あなた) の提供できるサービスで実現できる事の一致点であり、ユーザーが得られる物と担当者が行うべき事の目標になります。
簡単な例では、ユーザーにある文書を特定の用紙枚数 (例えば 4 枚) 以内に印刷したいという質問がある場合、その一番妥当なゴールは「その方法の案内」になるでしょう。別の例として、ユーザーからあるソフトウェアでデータを袋とじ印刷したいが意図通り印刷されないというトラブルの相談があった場合、そのゴールは「必要なデータを袋とじ形式で印刷する事」になるでしょう。
ゴールを達成される事で、担当者はユーザーにヘルプやサポートで適切かつ十分な対応が得られたという満足感を与える事ができますし、また仕事の区切りをする事ができます。ゴールが明確でないため、ユーザーから次から次へと質問や苦情を突き付けられ、苦労した経験がある人も少なくないでしょう。
そのためユーザーからの質問やトラブル申告を整理し、ユーザーのニーズを把握し、それに適切に対応したゴールを設定する事は重要です。ゴールが明確であれば「ここまでちゃんとやりましたよ」とユーザーにも、またあなたの上司にも言えるわけです。

さてここで注意しなければならないのは、ゴールは明確であるべきだけれど、そのゴールを達成する手段が限定されるような設定にはしない事です。
例えば上の例の前者の場合、ユーザーは印刷を行うソフトウェアの印刷設定で印字用紙枚数を設定する事ができないかと思って質問しているかもしれません。しかしここでゴールを「そのソフトウェアの印刷設定で用紙枚数を設定する方法」にしてしまうと、もしそのソフトにそうした機能が無ければゴールは達成できない事になります。しかし「そのソフトウェア」と限定しないでゴールを設定しておけば、プリンターの機能で実現してもゴール達成となります。
また後者の場合もゴールを「あるソフトウェアの袋とじ印刷の正しい設定方法」にすると、もしトラブルの原因がソフトウェアの不具合 (特定の条件で袋とじ印刷が正しくできないバグ)だった場合、ゴールが達成されていてもユーザーの本来の希望 (袋とじ印刷を行う事) は実現できません。上と同様に手段を限定しないゴールを設定していれば、ソフトがバグで正しく機能しなくともプリンターの設定で袋とじが可能であればそれでゴールは達成でき、ユーザーの希望も叶います。
一つの目標を達成する手段は常に一つとは限りません。またコンピュータ システムの場合不具合 (バグ) で期待通りの動作ができないため「運用回避」や「代替手段」で問題に対処せざるを得ない場合も少なくありません。またセキュリティー上の規制などコンピュータを使っている環境 (企業、会社) でのルールによって手段が制約を受ける場合もあります。
「ゴール」で達成すべき課題は明確にするべきですが、手段を制約するような内容はできるだけ含まないようにする事、これが重要です。

もう一つ重要なのは、適切なゴールは必ずしもユーザーの (表面的、直接的な) 希望と同じではないという事です。
例えばユーザーのコンピュータでは定期的に原因不明で正体不明のエラー メッセージ ダイアログが表示され、これについてあなたに対応を求めてきたと考えてください。この場合正しいゴールは「エラーが表示されなくなる事」でしょうか。
もちろんユーザーの直接的な問題はエラー メッセージが表示されることです。しかしユーザーは「エラーが出る」という現象の裏側で、何か自分では理解できないコンピュータの異常が発生しているのではないかという不安を抱いているはずです。したがって単に「エラーは出なくなりました」というだけの対処ではそうしたユーザーの不安が十分に払拭されるとは言い難いのです。
ユーザーの本当のニーズは不安が取り除かれる事であり、安心して業務にコンピューターを使える事です。ですからゴールもそれにフォーカスした内容であるべきです。具体的にどのようなゴールが可能かは、エラーが発生している状況にもよりますし、またヘルプデスク業務、サポート業務についての組織 (会社) の方針、ポリシーによって変わってくるでしょう。しかしいずれにせよ「コンピュータが (その会社にとっての) 業務に利用しうる要件 (安定性、安全性) を持っているかどうかを確認する」ところまではゴールに含まれる必要があると思います。

そして最後に留意すべきなのは、できそうにない事、無理だとわかっている事についてユーザーの期待値をうまくコントロールし、期待値が高すぎないようなゴールを設定すべきだという事です。
実際にトラブル対応やヘルプデスクの仕事をしていると、ユーザーから繰り返し同じような質問への回答やトラブルへの対応を求められる事があります。そしてその大半は「残念ながらこのソフトではできません」とか「現在の我が社のシステムではできません」とか、あるいは「このトラブルは初期化 (リカバリー) 以外に確実な解決方法が確立されていません」だったりします。
当然ユーザーは希望が叶う答えが得られる事、問題が簡単に解決する事を期待している訳ですが、それをそりままゴールにしたのでは、最初から未達成になるのは目に見えています。だからと言って門前払いするような対応をすれば、ユーザーは不満に思うでしょうし、場合によっては納得しないでしょう。
そこでユーザーの期待通りの結果になるのは難しい事を誠意をもって伝えつつ、それならばどうするのが一番良いのか、例えば代替案を提示してユーザーがやりたかった事と極力同じ結果が得られるようにするのか、あるいは現時点ではユーザーが我慢するとして、将来的なソフトやシステムの改善を求めるアクションが必要なのか、ユーザーの気持ちを汲み取ったゴールを設定する必要があります。

つまり「ゴール設定」とは単にユーザーの言っている事を無条件に反映させる物ではなく、ユーザーの言っている事の裏側にある本当の希望やユーザーが直面している現象の状況をうまく引き出す作業であり、そうして引き出した物と担当者 (あなた) が「仕事として」できる範囲とをマッチングさせる作業なのです。

ゴールがうまく設定できれば、目標がはっきりするのでユーザーとのコミュニケーションも取りやすくなりますし、ユーザーも担当者は何のために何をやっているのか、理解しやすくなります。そういう相互疎通は作業を円滑にし、作業の切りや手離れを良くし、またどのような結果になっても (は言いすぎかもしれませんが) お互いに達成感め満足感が高くなるでしょう。

もしあなたがサポート業務、ヘルプデスク業務でいつもユーザーに振り回され、やらなくて良い事まで付き合わざるを得なくなる事が多いと思っているなら、それは最初のゴール設定に問題がある可能性が大きいと考え、ゴールの設定の仕方を見直すべきだと思います。

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